人と別れるとき、「さよなら」という人がいます。
「さよならぁ〜」でも「さよーならー」でもなく、「さよなら」と。そういう人は恐らく電話でも、最後「さよなら」と言って切るタイプだと思いますが、対面でも電話でも、私はこの「さよなら」のいわれ方が非常に苦手です。
自分が生まれ育った関西の田舎では、大人も子供もさよならという人はいなかった。
小学生のときは「ばいば〜〜〜い」のみ、中高生期はそれに「じゃあね〜」「またね」「ほな」等が加わり、大学もそんな感じ。社会人になると相手によって「失礼します」から「じゃここで」「気ぃつけて」「今日はありがとう」を使い分ける感じ。「さよなら」なんて言葉は、小説や詩(歌詞)に出てくるもの。または、映画やドラマのセリフという認識でした。※❶
そんな私が、関東で初めて、生きた人間に真顔で「さよなら」と言い放たれたときは、膝から崩れ落ちるくらいの衝撃を受けました。うっすら涙まで浮かべて、立ち尽くしました。そんなになるとは自分でも驚きましたが、それほど悲しくやりきれなかったのです。
あれから、長い年月が経ちましたが、今でもたまーにいますね、やっぱり。「さよなら」っていう短く言い放つ人。そんなにいないけどたまにいる。
昔は、「なぜそんな悲しいこというのか」と涙した私ですが、当然さよならにそこまでの意味はなく、単なる挨拶としてふつーに使ってらっしゃるってこと、今ではよくわかっています。でも、実際にいわれると「!」となって今でもだいぶと悲しくなる。
そうです。私は面と向かって口頭で「さよなら」といわれると「悲しい」のです。悲しくて悲しくて、やりきれない。なんでだろう。私だけでしょうか。
まるで、その人が今から戦地へと赴く、とか、助かる見込みのない手術を受けにオペ室に入る、とか、それくらいの「二度と会えない感」つまり、「これから◯にます感」をビンビン感じてしまうのです。
つまり、もう会えないというだけでも寂しいし悲しいのに、それどころか、「この人は今から◯ぬのだ」という極度の悲しみを感じるんだと思います。
長々と個人的な話をしてしまいました。すみません。
実はこの春、そんな私が、ONFのカムバ曲「Bye My Monster」において、とびきり真顔で口頭の「さよなら」(アンニョン)を言い放たれてしまい、その衝撃がすごすぎて、その場で即死してしまったという話をしたいのです。
そもそも、この曲自体が、悲しくやりきれない超絶エモーショナルな楽曲。
ピアノと弦楽器がラフマニノフの古典的旋律を奏でつつAメロBメロと静かに展開し、一転、力強いサビになると盛り上げに盛り上げ、ボーカルは全身全力でクライマックスを歌いきる、そしてそこから突然の「アンニョン」なんです。サビのとどめ。しかも「アンニョン」というとくるりと踵を返し背を向けられるという振りまでついてるんです。
この「アンニョン」の威力がですね、まるで初めて知人に「さよなら」と言われて立ち去られて泣いた、あの日のあの衝撃そのままでですね、いやもう初めて見たときは本当に驚いて、スマホ持ったまま即死してしまいました。
一曲に2度言い放つ、そのメンバーは、最年長で最イケメンのヒョジンです。
このサビは、実は、彼だけでなく他で他メンバーも歌うんですが「アンニョン」を言い放つのは、ヒョジンだけです。それがまたポイントだと思います。※❷
このお方は、あまり喋る方じゃなく、いや喋ればかわいいししっかりしてるし面白いしわちゃわちゃもするけど、一番静かというか最初にペラペラ話し出す性格ではなく、顔が整いすぎてることもあって、ちょっと冷たい感じもする。。。かな?というメンバー。もっとも落ち着いててもっともしっかりしててうまいのは、最年少の日本人メンバー水口君ですが、ヒョジンはそこまで冷静でもない。なんというか、端正な顔の良さが相まって(それ大きいと思う)、ちょっと「何を考えてるか捉えがたい」メンバーなのです。
だからなのです。これが、水口君やスンジュンによる「アンニョン」だったら、私もここまで毎回即死してないでしょう。
書いてて今気づきましたが、わたくし、相変わらず韓国語は全くわかりません。
「さよなら」が「アンニョン」になるのは知ってましたが、仮に知らなくても、この曲の雰囲気とか表情とか振り付けから、それが「さよなら」だとわかると思います。
つい最近になって、歌詞和訳を読んでみましたが、これがまた思ったとおりの内容というか、思った以上にエモーショナルというか、歌いだし一行目からエモ全開でした。読まなければよかったと後悔するくらい、悲しく苦しく後ろ向きな(?)よくできた歌詞です。歌詞を知ってから、さらに爆死するようになりました。
コンセプトに凝るWMとPOP職人
が、2017年デビュー時からずっと注目してきた理由は、1つは、日本人メンバー水口君がいたこと、もう1つは、大好きなMonoTreeが作詞作曲をやってるから、です。MonoTreeは、我が師と仰ぐSweeTune軍団から分派したとこなので、何を書いても私にしてみればぐっとくること間違いなし。だから、これまでずっと鑑賞し続けてこれたし、パフォーマンス含め愛し続けてこれた。が、あまりにもコンセプトがしっかりしていて、私にはついていけないところがあったのも事実。
所属事務所WMの先輩Oh My Girlにも、まったく同じことを思ったものです(MonoTreeではない)。おまごるもおねのぷも、あまりにコンセプトがしっかりしてて、メンバーに完璧を求め、またメンバーが想像以上に見事に体現するので、すごいのはわかるけど自分だけが情報不足&考察不足のバカみたいに思えて、置いてけぼりを感じる面があったんです。考察ほんとに苦手なんですよね私。
えっ?えっ?と私がおろおろしてる間に、WMって、どんどん次のスケジュール入れて、どんどん次のアルバムコンセプトたてて、どんどんカムバして、どんどん置いてかれる・・・みたいな。
おねのぷだって、デビューしたと思ったら、すぐに全員サバイバル番組に出されたり、全員で入隊宣言(実際メンバー全員で同時入隊したのは業界初)してたり、こちらのことおかまいなしに、どんどん次へ突き進んじゃう==ちょっと待ってーー。というイメージが強かった。ま、なんにせよ曲がいいし皆うまいので見てきたわけですが。
おねのぷの場合は、同じ人が一貫してプロデュースしてる分、さらに、強力な世界観が構築されており、さらにメンバーも頑張ると。おかげさまで、MVはすべてが見応えがあって高クオリティを極めています。が。なんというか、最初からなんでもできるのでメンバーは職人タイプ。POP職人なんです。指示された役割になりきるあまり、メンバーには「滅私」の状態を感じます。作家さんの望む世界をつくろうとするあまりその人の個性を出さないようにしてると。
例えば、Jellyfishという事務所のVIXX、あるいはgugudanというグループは、結成当時から「このグループはいわば劇団であり、劇団員(メンバー)がいろんな劇(カムバ曲)を毎度演じるのだ」というコンセプトがありました。両グループともカムバごとにまったく違う曲を、てんで違う衣装やヘアメークで違うキャラになりきって話題に。特に、VIXXのあまりにも極端で振りきった憑依ぶりは「コンセプトドル」という名を欲しいままにして有名になりました。
そういう劇団アプローチと、おねのぷの「滅私」は同じなのかというと、ちょっと違う。私が思うに、先輩ほど積極的に「役柄」「演技」をするというものじゃなく、単に「自分を消してるだけ」っていう気がします。完全に個人の感触ですけど、滅私は滅私。それは、歯車になりきる、駒になりきる感じであり、アンドロイドのようになって自分を閉じこめる感じ、です。
奇しくも、おねのぷのMVには、幾度かアンドロイドが登場するものがありますし、メンバーがアンドロイドだったというネタもあります。近未来設定が多いのでそうなるのは不思議じゃないんですが、例えるならそれです。劇団員というより、そっちです。
滅私されると、その子がどんな子かわからない。もっと興味もっていろいろ深いりしたくてもできない。歌の中でその子ならではの表情や表現や伝え方を、もっと思う存分やってくれたらなーーと思いつつ、ま、クールにスタイリッシュにやってくれてるのも悪くないしなーなどと思っていました。
ONFは変わったと思う
そして。このアルバム「Beatiful Shadow」及びカムバ曲「Bye My Monster」です。
これまで、足掛け7年にもわたり、(私にとって)滅私かアンドロイドか状態でしか接してくれなかったおねのぷメンバーが、唐突にして最強のレベルで、人間らしさをぶつけてきた! というアルバムです。
体温、湿度、皮膚感、匂いがバチバチに感じられる!! 自分の言葉で「アンニョン」をビシッと言い放ってきたんですよ!
大衆の皆さんが、あの「アンニョン」をどうお感じになったか知りえませんが、前述のような環境で育ち、前述のようなイメージをおねのぷに持っていた私にとって、今回の「アンニョン」で即死してしまうのは、考えたら無理のないことなんですよね。
なんというエモさ、なんという生身感。6年分の置いてけぼりを吹き飛ばすその威力よ。
ヒョジンだけではありません。
今回は、大人になったメンバー1人1人を、ちゃんと生身のいち人間として撮影しております。7年目にして「君はこんな顔しとったんか…」と感動できるなんてそうそうない。まったくそういう撮影してこなかったんですねえ、今になってしみじみ思う。
今回から、スタイリストさんが変わったそうですが、それも相当に功を奏しております。楽曲歌詞から美術セットも振り付けもヘアメークもカメラワークまで、ちゃんとエモくて素晴らしい。突然どうしたんでしょうねえWMさんは。WMなのか、MonoTreeなのか、合体したRBWのせいなのか、全部なのか。とにかく、私はとても変わったと思います。
兵役中の軍服パフォが契機に
ところで、先ほど書いたように、韓国人メンバー5人は21年末に同時入隊しました。
でも、21年12月にアルバム出してギリギリまで活動してたんです、で、除隊後初カムバが23年10月。途中22年夏には、新曲含むベストアルバムを出してるので、これはもう、いわゆる軍白期ほぼなし。といっていいレベルです。同時入隊が業界初なら、軍白期ほぼなしというのも業界初。そもそも停滞期も長期休暇もなく、どんどん仕事をしてどんどん次行くのは、やはりWMのすごいところです。
そして、この兵役中に、話題になったのが、軍のフェスティバルっていうんですかね。 結構やってるみたいですが、服役中のアイドルたち数人で、ちょびっと練習して皆様に披露するステージイベント。おねのぷメンバー含む数人がHypeBoyを踊ったのがバズってしまうということがありました。ほかにも、ちゃんと5人で持ち歌を踊って歌うという動画がたくさん出回って、結構人気になりました。
私は、このときに、ま、おねのぷだけじゃなくて他のグループメンバーにも思ったことですが、丸坊主&どすっぴん&ぴちぴち軍服&インナー重ね着&ダイエット禁止のため全員小太り体型 という三重苦ならぬ五重苦にいたく感動したのです。
どう考えたって、別人ですよ。正直いって。
アイドルといえば、きれいにメークしてきれいなスーツ着て完璧に髪セットしてるのがデフォルト。それしか見てきてないので、「誰っすか、このおじさんたちは」となるのが当たり前なんです、が、なぜかあのときに見てた軍人アイドル勢は、自然で頼りがいがあって、かっこよく見えたんですよね。とても新鮮で感じよかった。
たしかに、小太りでチビでニキビでひどいんですが、それを隠そうとかよく見せようとかせず(無理だけど)、いさぎいいし、みんな普通に笑ってるのが自然体で、「そうだよなぁ。汗臭い人間がやってんだよな〜〜アイドルって」と感心してしまった。踊り始めたら、いつもより上手な気がしてそれにも感心。おねのぷが中でも一番自然体だったし、そうなってくるとなんだか可愛く見えてきたりして、今でもあの軍服パフォは好きです。あれで、生身のメンバーとの距離が縮まり、かなり好感をもって、ほんとに除隊後の活動を心待ちするようになったんです。
軍服姿の素顔に感動した私にとって、今回の「Bye My Monster」は、あのときのメンバーの姿と重なっています。
カムバ一発目23年10月「Love Effect」は、かなり前から準備されてた曲なのでは。いつも通りのMonoTreeで遜色なくすごく売れましたが、今回のような、一皮むいて素顔で勝負! という感じが微塵もありませんでした。
でも、そこからです。メンバーが記号から本名に(J-us→スンジュン / MK→ミンギュン)戻すということがあってから、今回の大展開に入ったと思われます。あとの3人はなぜそのままなのかという謎はさておき、なんにせよ、生身感と人間力。皮を破って、本名を語り、素顔を真っ向からぶつけてきたの今作です。
どうでしょう。少しは「アンニョン」の破壊力が伝わったでしょうか。
これまで、特に私が感じてきたこと、私が持っていたイメージなど、まっっったくお持ちでなかった方々、どこまで「アンニョン」の体温や湿度、生身の質感を感じていただけるかわかりませんが、ぜひ、ご覧になっていただきたいと思います。別に即死したり爆死したりできなくても、非常に良曲ですし美しい映像ですので、MVでも歌番組でも見て損はしません。
このアルバムから始まった活動は、ソウルコンから日本〜北米と、かなーり精力的な予定のおねのぷ。ぜひ、大成功してたくさん儲けて、この路線を二度と変えないでほしい。そう祈りつつ、今日も歌番組の方をみて爆死したいと思います。
※❶ちなみに、大阪弁の「さいなら」をいうおばちゃんは大勢いました。でも「さいなら」は、イントネーションやスピード、マインドすべてが陽気で軽やかなので、もはや標準語のさよならと同義の言葉とは思えなかった。
※❷ちなみに、MVでは、2回ともヒョジンの「アンニョン」を、正面から見れません。1回目は「アンニョン」と叫ぶヒョジンにかぶるよう前にスンジュンが立ちはだかるから。2回目は、別に撮ったストーリー動画を差し込むため。つまり、MVでは2回ともヒョジンは見れず音声のみです。それでも、じゅうぶん即死できますが、音楽番組の動画だとまともにくらうことができるのでおすすめです。ただし、エムカは、カメラ監督がMVを見すぎてる為MV同様、スンジュンかぶりで撮ってるので(メンバー大絶賛)ほぼ見れません。