2019年2月デビューのITZY。2年半余たったが、ここへ来て大きくその意味を変えようとしている。
具体的イメージでいうと「強くてかっこいい女子」からの脱却。概念的には、「TWICEのカウンター」としての立ち位置からの卒業である。あ、このカウンターという言葉、ここでは「敵」とか「真反対の」という意味で使っているので、かるーい意味で読んでほしい。
JYPに限らず、誰だって、新しくガールズグループを作ろう!と思った時、先輩ガールズグループがまだ現役でバリバリ活動してたら、「お姉さんグループとは、全然違うイメージで」デビューさせようとするのが普通だと思う。同じようなグループが2つあれば、どうしたって若くてフレッシュな新人に目がいくのは当然だし、姉妹でファンの奪い合いしていいことなど何もない。これに則らないのはSMぐらい(あそこは自分のしたいことを順に実行してるだけなので)で、大抵は、真逆のイメージでデビューする。JYPは、特に、その戦略が大当たりして、非常にうまく機能し、成功を繰り返してきた。
ま、複数の同性グループを活動させられる事務所なんて、多くない。男子1つ、女子1つ抱えてるだけでも大変なことで、そのどちらも売れてて、さらに新人を!となると、それこそ3大事務所?4大事務所?7次事務所? の話になってくる。複数の同性グループ抱えてるのって難しいのだ。特に女子の場合は。
ITZYの話の前に、JYPにおけるガールズグループ戦略の歴史を、ざ〜っくり振り返っておきたい。興味ない人は飛ばしてください。
WonderGirlsのカウンター、MissA
TWICEのカウンター、ITZY
JYPは、ガールズグループの名家といわれるが、そのしくみは複雑怪奇なものではない。
ワンダーガールズのカウンターが、MissA(ちなみに、ワンダーガールズの中国版がMissA中国人メンバー2人によるユニット)
TWICEのカウンターが、ITZY
(ちなみに、TWICEの日本版がNiziU)
ということだ。つまり、お金になる中国市場や日本市場に、韓国で大ヒットしたガールズグループとそっくりのグループを自前で作ってデビューさせ、そのノウハウでがっちり資金を稼ぎながら、一方、本国の韓国では、まったく逆のコンセプトを持つ「カウンターとしてのガールズグループ」をデビューさせる。ということを繰り返してきた。
具体的にいうと、2007年デビューのワンダーガールズは、「Tell Me」以降、「NOBODY」「So Hot」「Be My Baby」と、懐古調アメリカPOPSが受けて国民的アイドルになった。いわば、最後のお茶の間アイドル。小学生から高齢者までこぞって振り真似するなど、全世代に愛された。すると、2010年デビューのMissAは、それと真逆の「いい子ではいられない強い女子」をコンセプトに据える。いいたいこといい、やりたいことをやる。その逞しく自分に正直な女子イメージは、衝撃的なデビューを飾り「GoodGirl, Bad Girl」は史上最速で多数ランキング1位を獲得。その後も、周囲に頼らず、自分で自分の欲望を実現しようとする強い女子を打ち出した。
そして、2015年TWICEの登場である。健康的で明るく元気でかわいいイメージでデビュー。「TT」でブレイク以降、日韓で、そして男性にも女性にも幅広く愛され支持され、数々の記録を更新してバカ売れ。現在まで長きに渡って売れ続けている。
さあ、そこで、のITZYだ。
大先輩TWICEの、真逆コンセプトとなれば、やはり強め女子の再登場になるのは必至。「自分のやりたいことをやるかっこいい女子」として2019年デビューした。MissA先輩とどこが違うかといえば、「男性に媚びない」か「大人たちに媚びない」くらいの差で、大きく変わらないと思う。パフォーマンスがずば抜けているという点も同じ。予想どおり、ITZYの、周囲に媚びず流されず自己実現を目指す女子路線は、大成功を収める。デビュー曲「DALLA DALLA」で、若い女性に圧倒的支持を得て、これまた最速記録樹立。続く「ICY」「Wanna Be」で、このイメージをしっかり確立した。
実際には、カウンターも最初の数年だけ
これが、ざっくりしたJYPのガールズグループ史である。
実は、JYPが初めて手掛けたガールズグループがワンダーガールズなので、女子は15年弱の歴史(韓国では長い方だが)しかない。こんなふうに、かわいい女子が売れれば、そのカウンターとしてかっこいい強い女子が現れて世間をあっと驚かせるやり方は、結果論であり、たまたま、うまく繰り返された事例なのかもしれない。
そして、ここからが問題なのだが、実際には、この「カウンターとして新人を売り出す」メソッドは、ずうっと続く施策ではない。むしろ設定期間は短い。
カウンターというのは、そもそも「敵」である先輩がいて、それが現役で超活躍してるからこそ成り立つ概念。「敵」あってこそ、だ。「敵」そのものが、変わってしまったりいなくなってしまうと、意味がないので成り立たない。
ワンダーガールズは、早くからアメリカに進出していたが、MissAがデビューするとマジで北米と日本の仕事だけでいっぱいになり、ほぼ韓国に「いない」状態になる。ネット時代の前なので本国にいないと本当にいないみたいになる。それでは違う方向性を。と模索してたMissA自身も、想定外にスジだけが1人で超バカ売れてしまい、メンバーが不仲になり、グループ活動ができなくなっていく。
ITZYの仮想敵であるTWCEも、今や、もう、かわいくて元気で明るいだけの女子ではない。ITZYがデビューした2019年は、TWICEが大人路線に舵を切った年だが、それだからこそ、非常に素晴らしいタイミングで、我々は「新旧女子グループの相対コンセプト対決!」が見れた。奇跡のようなもんである。あまりに感激して次のような記事を書いちゃったくらいだ。
あれから2年。その後、さらにコマを進めたTWICE先輩は、今や、すっかり「大人の女性」になった。実生活では、それぞれ彼氏ができたり別れたり、病気で倒れたり休んだり、という出来事も少なからず影響して、「女だって、生きてりゃいろいろあるわよ」的な存在に。今のTWICEを見てると、私などは「いろいろあるけどさ、楽しむときは楽しんでいこ!」という逞しささえ感じる。先輩がそんなふうに、(顔はかわいいけど)とても強くなってしまったので、もうカウンターを考える意味も効能もない。あんたが一番強いのでは? ってくらいのもんだ。結局、どういう経緯をたどるにせよ、「カウンター戦略」とは、デビューをピークとして(MissAもITZYもデビュー時がもっとも衝撃的成功を収めている)徐々にパワーを弱め、数年で終わる運命なのだ。計画というか。JYPとしても、永遠にカウンターとして活動させるつもりは最初からなかったろう。そう考えると、ITZYが、ここへ来て、大きく路線変更するのは自然なことなのだ。
あと、2022年2月にデビュー予定のJYPガールズグループ。この影響も大きい。噂では、えらく力が入ってるらしいが、順番からいっても次はとんでもない女子グループが来るはずなので間違いない。「こ、こんな前から予約を募るの?」と思ったが、年が明ければあっという間だ。その頃には、先輩になるITZY、いつまでも「若い女子が大人に反抗して自分を通す」などと最若の気分でいてはまずい。抵抗とか反抗ってのは、一番若い層だけに許される態度。来年2月までには、年齢に関係ない新たなイメージを確立しておかねばならぬ。という事情なのだ。
そもそも、ITZYが持ってる独自のイメージとは
ITZYは、早くもカウンターとしての役目を終えた。
世間では、「DALLA DALLA」「ICY」「Waana Be」までが第1章で、去年夏からの「NOT SHY」「Mafia in the morning」「LOCO」が第2章だとしてるようだが、私は、今作「LOCO」からが新たな段階だと思う。なぜなら、ノッシャイもマフィアも、心情的には、ちゃんと、強くて自分のやりたいようにやる女子を歌ってたと思うから。ロコはもう全然違う。元気ハツラツ女子たちがはっちゃけて男子に夢中になってる様子を歌うロコは、曲としては良曲だしパフォもさすがにすごい。しかし、これまでと全く繋がらない。「お、お前(餅にいってる)、本当にいいのか?」と心配になるほど違う。だが、これまでと違うものを探してそれを確立しようとしてるのだから、それくらい違和感があった方が、むしろいいのかもしれない。マフィア程度の変わりようでは、来年に間に合わないのかも。数字的には、デビュー時よりずっと売れてるわけだし、今初めて見る人たちも喜んでるわけだし。
しかし、それにしても、惜しいな〜〜〜と思っちゃうわけである。
デビューした時の、あの感じ。TWICE姉さんたちに向けて、新人からの、あの生意気ながらも「なるほどですね」と思わせたあの感じ。あれが、あの子たちの生身のイメージと本当によく似合っていて、とても素晴らしく昇華させてたと思うので!!!
では、ITZYのメンバー5人が、もともと持っている独自のイメージとは、一体、どういうものなのか?
これは、超個人的な思いだが、初めて見たときから、
ITZYはどーーーーんとしている。 頭から離れない。なんだろう。とんでもなく肉体派。純粋すぎるのも含めてすごく体育会系。今、女子でめちゃくちゃ激しく踊るグループはたくさんあるが、ITZYは、腕や脚のお肉が震える様子や、滲み出る汗などが、画面越しに実感できるって感じ。生身。決して、CGみたいなドライでクールな印象ではなく、生身の重量や風量や温度が感じられるのだ。変態かしら?
「練習して練習して実力をつけて参りました」という叩き上げ感がある。いっぱいオーディションを受けて落ちてるのを見てるからってのもある。そして、明けても暮れても練習しかしてこなかったゆえに、どこか世間知らず。とってもいい子たちなのだが純朴すぎて不器用。ずれてるというか、空気読むのが苦手な感じがする。あくまで私の想像にすぎないが、でもこれらは欠点ではない。そうでないとできない路線があるはずだと、本気で思う。
例えば、この感じ、自分の中では、2015年前後の防弾少年団にちょっと似ている。
昔、防弾少年団のことを「県立高校野球部員みたいだ」と書いたことがあって、それだけ聞くと「は?」と思うだろうが、要するに、それくらいあの頃のBTSは、ただただ自らの肉体だけを武器に練習量を積み重ねることだけで、すべてを飲み込んですべてを乗り越えていたという、超肉体派なところがあったのだ。あの頃の彼らも、それこそ汗やら涙やら体温やらが、画面ごしに伝わってきてたように思う。生きてる人間がやってるんですよ!っていう。もともと体育会系の人たちが、きれいなスーツやドレスシャツを着てお澄ましして踊ってる、っていうことが(私においては)魅力になっていったんだよなー。いうなれば。泥臭い魅力があるのだ。
そして彼女たちは、そもそも体格がいい。
全体的に身長が高く、特に、ユナとイェジは170cmあるがすら〜〜っとしててそれ以上高い感じがして、身体にキレとスピード感がある。チェリョンとリュジンは、正にどーんとしてて、一歩も動かないわよという強靭な筋肉と体幹が見事。腕相撲とか強いはず。リアは、プリンセス役で可憐なキャラだが、しっかりした骨格がきれいな形でバランスがよく、まっすぐしっかり淀みもなければ揺らぎも傾きもないポージングの美しさを誇る。てことで、5人全員が、「腕組みが似合う」人たちなのだ。腕組みと仁王立ちが似合う。強い。見ためだけじゃなくて、実際に筋肉や力やスタミナが強いっていうホントの強さ。そんなガールズグループほかにない。女子プロか。
体格的には、人間山脈VIXXのような、どどーんとした恵まれた体格をもち、内容的には、防弾少年団のような叩き上げ力を誇る。それが、私が出会ったITZYだった。こういう見た目の特徴というのは、固有のものなので、それを活かしてほしいものだ。
中身がかわいいのは本当なので、はっちゃけガーリー路線もいいだろう。アメリカ進出も始まってるし、アメリカ人がわかりやすく好みそうな路線だと思う。もしかしたら、本人たちはロコ路線の方が好みだったりするのかもしれない。が、こういっちゃなんだが、ロコは、ほかのグループが歌っても全然アリだし、イケる曲だ。わざわざ、女人間山脈ITZYちゃんが、歌わなくてもと思っちゃう。やっぱり、勿体ないな〜〜〜という所感に落ち着くのであった。
思い切って、VIXX先輩のように「なりもの」(自身のことではなく空想上の人や物になりきって歌うジャンル)路線でファンタジーを行くか、それとは真逆に、防弾少年団のように「現実・社会派」(どんな曲でも結局社会的メッセージを込める)で行ったらどうか。肉体派があえてやるから映えるんですけど。ダメか。
とりあえず、大型新人ガールズグループがデビューする2月までに、もう一度ITZYがカムバするかは別として、それまでに、このロコ路線があの体格に違和感なく、どれくらい馴染んで浸透しているのか。が、目下の見所である(私の)。